管理職になりたいですか?
はじめに:「管理職ぶっちゃけどうよ」
会社に入って、30半ば位になると管理職になるか、なれるのか、なりたいのか、なりたくないのか、という類の話題がよく出てくるようになる。自分の周りで言うと、一定数どころか、割と過半数が「なりたくない」と言っている。
最近は罰ゲーム化する管理職と言う本が売られていたりするように、実際管理職というのは大変だし、辛いし、報酬が見合っていなかったりすることも少なくない。
自分は、実際にとある某企業の管理職である。今年からなったばかりの新任管理職と言うやつである。1年間これを経験してみて実際に今どう思うか少し整理して語ってみたい。
もちろん多くは自分の主観について話すわけであるが、おそらくは日本の多くの企業において管理職と言うのはあまり構造的に変わらない部分も多いと思うので、参考になったり共感を誘うといいなと思っている。
自分のステータス概要
詳細に入る前に、まず自分の状況を簡単に整理する。
- 自分は今、日本の某大手機械メーカーで働いている。
- 去年試験をクリアして、今年から管理職になった。
- 30代半ばで比較的早く昇格している。
- 自分より年上の人が、複数人、同じ部署に非管理職として存在する。
- 管理職になりたいと言うモチベーションが、実際そこまで高かったわけではない。
ざっくりと書くと上に書いたようである。
年上を差し置いて早めに管理職になったにもかかわらず、別にそんなになりたくなかったみたいな。そういう嫌な奴みたいな経歴になってしまっているのは心苦しい。
しかしながら、残念ながら真実そうであるし、人の人気を取りに行ってるようなブログでもないので、正直な気持ちを色々と書いていこうと思う。
管理職になるまでの経緯
冒頭にも少し書いた通りであるが、自分は管理職になるモチベーションは決して高くなかった。
なぜそんな自分が早めに管理職になったかというと、理由は3つある。
- 能力がそれなりにあった。
- 上司に恵まれた。
非常に嫌な奴のような表現になってしまうが、自分はそれなりに仕事ができつつ、しかも上司に恵まれていた。
上司について
野村総研の調査結果だと、確か「最初についた上司が優秀な人が出世が早い」ということらしい。自分の場合は、厳密には最初の上司はあまり出世するタイプの優秀さを持ち合わせていなかったがバリバリの技術屋、3番目の上司はわかりやすい出世するタイプに該当する。
最初の上司は、定年まで課長クラスで、技術なことにしか頭になく、実務ばかりしていて、マネージャーとしてはかなり失格な部類であった。その人は自分自身のことを「俺はプレイングマネジャーだ」と言っていたが、僕は冗談でよく「いやいや、〇〇さんはプレイングマネージャーじゃなくてプレイングプレイヤーですよ」と言っていた。そんな関係性で、実際その上司が好きだったけれども、だいぶ問題児で、とてもじゃないけれども出世していくタイプではなかった。
3番目についた上司は、出世するタイプだった。その上司もすべてのキャリアで順風満帆と言ったわけではなかった。ときには、その上司が抱えていたチームが解散になり、チームメンバーは他の部署へ散り散りにされてしまったこともあった。ただ、紆余曲折あって自分はその上司の部下であり続けた結果、辛い時も一緒に危機を乗り越えた仲間的な感じになり、とても気に入られた。そしてその上司こそが、僕を管理職に早く押し上げようとする、その人となった。
管理職試験を受けさせられるハメになった背景
日本の、特に昭和の会社員と言うのは、自分の気に入ってる部下を出世させたがる。自分の部下を出世させることが自分の使命だと思っているような人が多い。自分の上司もそれに該当していた。
それもあってか、特に自分自身が管理職になりたいと一回も言ったわけでもない中で、その上司は半強制的に僕が管理職になる試験を受けるように早くから手を回してくれた。
最終的な結果で見れば、若い年齢で受かることができた。日本の古くからの大企業だったので、年功序列や部署間のいざこざの事情があったりして、何回か試験を受けなければならなかったが、最後にはうまくいった方だと思う。
苦しい、苦しい、管理職登用試験
管理職登用試験の内容は、非常に苦しみの伴うものであった。
評価項目としては、過去の実績、能力、といった部分がいろいろあるにはあるが、1番大事なのは当日行うプレゼンであった。
プレゼン内容は会社への提言であるが、この内容が非常に面倒。
詳細部分について明かすことはできないが、「超強力な縛りがある中で行う、短時間決戦のプレゼンテーション&その後の質問攻め」という感じ。条件は下記。
- 自分の専門性の高さを示す必要がある(研究開発職なので)
- しかし専門性の深い難しすぎる話をすると、別分野の試験官が内容を理解できないので、わかりやすく、わかりやすい内容を説明する必要がある。
- 管理職としての視座の高さというかスケールの大きい話をしなければならない。なので、技術的な細かい話、マニアックな話、スケールの小さい話をしても評価されない。
- きちんと自社や他社の状況を把握した上で最適な提案をしなければならない。
- 大きい話をすると抽象的になりがちだが、現実味がないとダメだと言われる。もちろん、具体的な話をしすぎてもマニアックだと言われてしまう。
- 数分くらいで実績も提案もプレゼンする必要がある。
- プレゼン後に20分くらい、偉い人からの質問タイムがあり、HPがなくなるまで質問攻めにされる。
上を見てわかる通り、話をするテーマの縛りが強すぎて、どんなテーマを選んでも100%適切な内容になることがない。プレゼンも短い。なので、必ず弱点が発生するが、そこを質問攻めされながら耐えなければならない・・・という感じである。(他社はどうでしょうか)
そのいじめを耐え抜き、プレゼン大会を勝ち取らなければならない・・・が、ただし年齢が若すぎると、結局試験受験者内での調整の結果、不合格になることもあると言う理不尽さも兼ね備えている。
年1回しかないこの試験を3回受けたが、正直とても辛かった。
当時の自分にとっての管理職に昇格するモチベーションというのは、管理職になることへのモチベーションではなく、管理職試験をもうこれ以上受けなくても良い、そんな世界に到達したい、というものであった。
管理職登用の試験に合格した時には、本当にもうこの試験を受けなくて良いのだ、と涙が出るくらい嬉しかった。
管理職になった後の実感
周りからの反応から得る実感
無事管理職になった後、肩書きも変わるし、通達も出るので、周りの人に知れ渡る。今の部署や、昔の知り合いなど、皆に「おめでとう」と言われながら、合格できたんだなぁという実感が湧く。
多くの反応はポジティブだが、時にはごく稀に、妬みや嫉みみたいなことも言われる。若くして管理職になると多少は言われるものである。
自分は給与明細をあまりきちんとみないタイプで、少し給料がアップしたくらいだとあまり実感がないが、周りの反応や組織の扱いが違うと、やはり実感が伴う。
研修の嵐
そして何より実感するのが、研修の多さである。日本の古くからの大企業は、特にコンプライアンス遵守に命をかけているので、本当に本当に研修が多い。
もちろん、新人管理職を集めた研修セミナーみたいなものが何回か開かれる。最近は現地でもオンラインでも開催されているが、1回につき1週間潰されるので結構きつい。
さらに何よりもきついのが、E-Learning系の研修である。この期間内に、この動画を見て、このテストに合格しろ・・・というのが大量にくる。普通のホモサピエンスが、仕事をしながらチェックできる動画再生時間を明らかに超えた異常な量が送られてくるのである。
おそらく教育企画部的には、セミナーと違って負荷は低いだろう&コンプラ重視するととりあえず研修受けさせまくればいいだろう、というロジックからか、ただただ動画の量が増えていくのである。
「お前は管理職になったのだから、この全てのルールを頭に叩き込め、いいか、会社はお前に伝えたからな、知らないということは許さないからな、守れなかったらお前の責任だからな、会社に罪はないからな」ということなのだろうか。
実務から遠ざかる
これは想像がつきやすいことだと思うが、管理職になると、どういう程度であれ、普通は実務から遠ざかる。
特に上司から、「もうお前は実務をやるな」と言われることはないが、実際管理職特有の業務が増えると、手が回らなくなり、実務から遠ざかり始める。
技術的な実務に専念したくても、それを他の人に任せたり、必要な人や金を集めたり、他のところへの説明に時間を取られたりする。
まだ新人管理職なので、そこまで劇的にではないが、それでも実務の量は圧倒的に去年よりも減ってしまった。人によっては悲しかったり、嬉しかったりするポイントだと思う。
僕個人は、実務が好きなので、これは悲しいポイントになる。それと同時に、将来完全に実務を離れたら、今後の仕事をうまく回せるのだろうか、と不安にもなる。
昔と今で同じ仕事の仕方が続くなら別だが、AI技術が急速に進化する今の世の中で、仕事の仕方が変わらないということは絶対にない。AIに仕事を任せて効率化しつつ、何かしら現場に近い部分を理解できるようにしなくてはならないような気がする。
上からは「AIを使いこなせ」「時代の変化についていけ」「仕事をイノベーションしろ」とか抽象的な指示がくるが、本当にここについてあるべき姿を描けている人はほとんどいない気がするなか、自分で答えを出さないといけないところである。
業務量の増加
管理職になり、確かに業務量が増えた。これは管理職全員が当てはまるものでもなく、人によっての個人差が大きすぎるので、なんとも言えないが、多くは上がると思う。
実務に手を出せなくなると前述したが、担当の時にやっていた実務を100%手離して管理職になれるケースもあんまりないと思うので、大体はプレイイングマネージャーにならざるを得ないのではと思う。
何よりも、部下にあたる人が、成果を出せなかった時、責任を取らないといけない時、仕事を肩代わりしないといけない時、結局何かしらの形で業務量が増える。
ストレスの増加
ストレスは、自分の場合はあまり変わらない。
業務量が増えたとしても、結局最近の大企業は業務時間を制限しているし、管理職クラスだろうがパワハラ抑制のルールが効いているし、今自分の実感としては、総合的なストレスの量は変わらない。もちろん瞬間的には色々とあるが。
ただ一般的には、増える傾向にあると思う。
上司が良くなかった時、部下が良くなかった時、よくわからないが責任を取らされる時、部下に任せられないが意味があるとは思えない仕事をやらないといけない時、土日に何か仕事が降ってくる時、問題児が問題を起こした時の火消しに時間を大量に取られる時、と当然ストレスはあり、それはあまり珍しいことでもない。よく聞く話である。
単純に自分はまだそういった経験が少ないから、ストレスを「まだ」感じていないだけかもしれないと思っている。
管理職になって良かったか
では結論として「管理職になって良かったか」というと、総合的にはなって良かったと思う。
詳細を分解すると
- 管理職試験をもう受けなくてもいいという観点から、なって良かった、というかもう「管理職になる」過程を踏まなくてよく本当に嬉しい。
- いつか年をとって、40代50代になった時に「管理職ではない」という状況は世間的に気まずいので、早いうちになれて安心する。
- 肩書を見て敬うやつもいれば、見下すやつも一定数絶対にいるので、精神的な満足からもなっておくと良いとは思う。
- 会社で一定以上偉くなるかどうかは、結局早めに管理職になるかどうかにかかっている。別にすごく偉くなりたいという願望を今持っていないが、選択肢があるのはありがたい。
- 部下を管理職にあげたい、という上司の思いを汲めて良かったなとは思う。
- 給料が上がるのは良いと思う。
- 実務から離れる、面白いと思う仕事の割合が減る(個人差あり)
- 嫉妬を受ける
- 責任が増える
- 業務量が増える
- 問題児がいた時の火消しが増える、部下の仕事のカバーが増える
- コンプライアンスを守る圧が高まる
- よくわからない人に「それ管理職の仕事ですよね?」とか「管理職なんだから、これくらい〜」ということを言われることがある精神的ストレス
もちろん、前述した通り、管理職になるかならないかの状況コントロールを自分がものすごく良くできていたわけではないのだが、振り返ってみると上記の通りで、総合するとまぁいつかは管理職になると考えると、早めになっておいて良かったな、とは思う。
かといって僕自身、早く管理職になる方法を提示できるわけでもなければ、状況と本人の能力と運に依存する話なので、結果論をただただ述べることしかできないわけである。
また、今後いくらでも管理職になったことを後悔するポイントが現れるだろうと思うし、なって良かったと思うシーンも出てくるのだろうと思う。まぁよくわからんのですが、現状こんな感じである。
管理職は罰ゲームか?
罰ゲームかといえば、それに近い要素はいくつかあるが、その分報酬も増えている。報酬が増えているといってもそれは大したことはない、と言われるケースもあるが、それは会社ごとに異なるので、なんとも言えない。
ただ社会的に、管理職になれない、ならせてもらえない、というのも罰ゲームの1種である。そして管理職になるかどうかは、会社の状況次第なので、ほぼ自分にコントロールできることではないことが多い。管理職になるチャンスをものにするか、それとも自分の信念に従うかどうかは、よく考えて結論を出した方が良い。
ダラダラとなるべく低空飛行で生きていきたいという考え方もあるだろうし、別にそういうのも良いと思う。そういう気持ちもよくわかる。
あと会社勤めするよりは、フリーランスになったり、起業したりした方が良いという声も上がる。それができるなら、それが良いと思うのが僕の考えだ。
ただフリーランスはフリーランスで、社会的信用が低下したり、組織をまとめていくようなマネジメントの仕事を将来やらなくなることを意味している。年を重ねると、面白いと思う方向性も変わってきて、もしかしたらマネジメントをしたいと思う日がくるかもしれない。それをもういい、と言って選択肢を切る行為に近いと思う。もちろんそこから起業したり、就職すればいいちゃいいが。こういう思い切りのいい選択ができる人は、ほぼこんな記事を読んで悩んでいない気もする。
起業する人は、もう起業したらいいと思う。大企業と全く異なるだろうから、それはそれで苦労すると思うし、起業する以上大体は社長になるだろうから、管理職になるどころの騒ぎではない。管理職で経験を積んでから起業してもいいかもしれないが、そんな時間が惜しいのであれば起業したらいい。という感じ。普通の意見ですみません。
まとめ
今回は、管理職になるということについて、自分の経験を踏まえながら情報をまとめてみた。
会社ごとに管理職の扱いも、管理職になる過程も大きく異なるだろうが、共通する部分も色々とあるのではないかと思うので、参考にしていただけたらと思う。
またこれに関連するが、管理職であったり、先輩という立場から、後輩や部下を指導する、育成するみたいなことがあると思う。会社に育成しろと言われるが、当たり前だが限度がある。でもどうにかはしないといえkない。そのあたりについてまた今度考察してみたい。
あとは漠然と、仕事ができる・できない、みたいな言い方があるが、これも非常に抽象的なことが多い。人によって評価はばらつくが、その本質を自分的に答えを出すとどうなるのか、というところも考察したい。
そんなこんなでセンシティブな部分だが、匿名で(身バレしない限り)、色々と考察して書いていきたいと思う。
